ドメーヌ・イトウ / 暮らしをつくるしごと from 岡崎

Exhibition 暮らしをつくるしごと from 岡崎|特別栽培に準じて栽培した自社ぶどうを使用して、野生酵母で発酵させて樽熟成させた自然派ワインを作るワイナリー「ドメーヌ・イトウ」にお話を伺いました。

INTERVIEW

2024.04.16 UP

本記事は、無印良品名古屋名鉄百貨店のOpen MUJIスペースにて、2024年4月16日(火)〜5月12日(日)まで開催されている【Exhibition 暮らしをつくるしごと from 岡崎】のインタビュー記事です。
岡崎市の暮らしや文化を作ってきた“しごと” にフォーカスを当て、実際に仕事で生まれたものや、仕事を支える道具、仕事の風景などを写真、インタビューと実物展示でお見せします。
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特別栽培に準じて栽培した自社ぶどうを使用して、野生酵母で発酵させて樽熟成させた自然派ワインを作るワイナリー。2014年から長野や山梨でワイン作りの修行を開始し、2015年に岡崎市東阿知和地区のぶどう畑を引き継ぎ、新規就農。翌年からワイン用ぶどうの定植をスタート。慣行農業だった畑を減農薬で有機質肥料を使用した畑に変えて、環境に配慮した栽培を行う。2022年までは自社ぶどうを山梨県のワイナリーに運んで自身で醸造しており、今年、自社ワイナリーで醸造したものを初リリース! 

住所:〒444-2111 愛知県岡崎市西阿知和町下山ノ田30−16 
※直営所の営業日と時間はホームページで要確認 

取材させていただいた人

伊藤 隆さん(48)

ワインを勉強し始めたのは、社会人になってから。お酒が好きというよりは飲むと楽しいから自分で作りたいというのが動機だった。今後は食用ぶどうの生産を減らして、ワイン瓶でいうと7000本から1万本の生産をしていきたい。波動・熱理学・電気化学・物理学の勉強とともに、米のビールやウイスキー作り、天体観測所を造るのが夢。 

Q1 仕事の内容を教えてください。

ワイン作りは畑作業が主を占めています。
12〜3月の晴れの日には必要な枝を残して剪定、雨の日には事務作業や昨年仕込んで完成しているワインを発送します。桜の開花後には芽かき、そして病害虫などの予防と駆除のために少量の農薬を撒きます。新しく伸び出た枝を誘引して棚にくくりつけ、5〜6月に花が咲いて小さなぶどうの実がついたら、実の形を整える作業に入ります。
ぶどうの粒がはっきりしてくると、傘をかけて梅雨の時期に備え、鳥害を防ぐためにネットもかけます。同時に食用の種なしぶどうにはジベレリン液をつけて種なし処理、ワイン用の種ありぶどうは多くつきすぎた粒を落とし、房の形を整えます。
種なしの食用ぶどうは、8月上旬〜9月下旬まで収穫と販売をおこないます。一方で種ありのワイン用ぶどうは、8月下旬〜10月下旬まで収穫と仕込みをおこないます。その後、秋に肥料を播きます。

9〜10月の半ばぐらいはワイナリーでの作業に移ります。まず、ワイナリーにぶどうを搬入し、機械で実と軸を分け、白ワインはその実を人力で果汁を絞る機械に移動させてプレス。赤ワインはその前に、皮と実を一緒に漬けおいてぶどうの色素を抽出します。朝晩2回、櫂棒(かいぼう)を使ってかき混ぜながら発酵させて、果汁をタンクに移した後、皮もプレスして絞った液体を合わせてタンクに入れます。その後は、白ワインも赤ワインもタンクで1週間ぐらい発酵させます。酸化しないように、液面の高さに蓋の位置を合わせたり、果汁を追加したりしながら見守り、最後は樽に果汁を移動させて熟成。
1〜2月にかけて、瓶詰めやラベル貼りをして出荷の準備をします。 

これが1年のサイクルですが、何もやらない日はありません。 

Q2 あなたはどんな暮らしをしていますか?働く日の1日のスケジュールを教えてください。

<冬〜春の時期、剪定作業>

8:00 畑で作業 
10:00 1回休憩、おやつを食べる
10:15 再び畑で作業
12:00 昼休憩(近場かワイナリーでお弁当を食べる)
13:00 再び畑で作業
17:30 作業終了

Q3 一番多くの時間を過ごしている場所はどこですか? 

自社のぶどう畑です。
ワインはぶどうづくりが全てで、特に剪定が命、全てを決めるって言っても過言ではありません。醸造のテクニカルな部分はワインを構成する要素の一部でしかなく、ぶどうの房ができるまでがまず勝負です。体力仕事なので、全然キラキラしていない泥臭い世界です。
ワインは日本酒と違って水がいい場所である必要はありませんが、土をはじめとした全体のバランスは大事だと思っています。

Q4 あなたの仕事を支える道具を紹介してください 。

剪定ばさみです。
自分の手に合うものを選びたいので、これまでに様々なハサミを試してきました。気に入ったものは、古い刃を替えたり、バネを交換したりすればずっと使う事ができます。はさみによる力の入り方が少し違うだけで、何本も何万本も切っているうちに手へのダメージが出てくるんです。
具体的な剪定のペースは、1日に1人でぶどうの木1本〜1本半、できたら2本くらいですね。結構剪定を嫌がる人もいるけど、僕は楽しいです。

木を永く生かすには、栄養の流れる方向などを考えて枝を切らないとうまく成長してくれません。枝の伸び方が均一になるように芽の数を調整する、この剪定が1年の中でもかなり大切な作業で、ただやみくもに切っているわけではなく、すごく頭を使います。
木の状態を見ながら6〜8芽残して、12〜16枝が延びるようにしていますが、芽数は木によっても変えるし、種ありぶどうと種なしぶどうでも違います。枝が多すぎても枯れてしまったり、芽ができなかったりします。最初はじっくり考えていたけど、今はセオリーや経験の蓄積があるので、どうしたらいいのかイメージが湧きます。  

Q5 仕事の中で、この土地(岡崎)ならではのことがあったら教えてください。

石の街でもある岡崎の風土が、この畑の土壌でしょうか。
花崗岩(御影石)が採れるところの地質は砂地だから、果樹栽培するのに向いています。この一帯は、以前は養蚕をやっていた土地で、その衰退とともに国策で果樹のぶどうを植えたのが始まりです。

私がこの土地に巡り合ったのは、運と縁が重なったからで、探し求めて決めた訳ではありません。知人がこのあたりの生まれで、元園主が亡くなられて継ぐ方がいないと聞いたので貸してもらいました。その時から育てている品種は少し変化していて、現在は食用ではシャインマスカットや、皮ごと食べられる赤いぶどうのクイーンセブンなど。ワイン用品種は一通り植えたけれど、現在はメルローとシャルドネ、ピノノワールなどを育てています。 

Q6 あなたの作るものは、お客さんの暮らしにどう取り入れて欲しいですか。

家族でも友達でも知り合いでも、ワインが人と人を繋げる潤滑剤になればいいなと考えています。
生活に潤いを与えるというと大げさかもしれないけど、お酒があった方がより楽しくなると思っているので、より食卓が豊かになって会話が弾む、そんな場面を想像しています。
現在、国内での取り扱いは、北は仙台から南は福岡まで。さらに、昨年からはオランダでも販売してもらっています。海外の人にも手に取ってもらえたらと考えてパッケージも作ったのですが、こんなに早く海外に届くとは思いませんでした。
味に関しては、日本食との相性が良く果実味が感じられる、手塩にかけたぶどうの味をワインに込めたいと思っています。それを皆さんと共有できたら嬉しいです。 

ドメーヌ イトウ
ホームページ
https://domaineito.com/
 

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