「これからの買い物」鼎談(前編)
「これからの買い物」はどのようになっていくのでしょうか?真鶴出版の川口さん、写真家のMOTOKOさんと一緒に3人で考えてみました。その前編をお届けします。
「これからの買い物」はどのようになっていくのでしょうか?真鶴出版の川口さん、写真家のMOTOKOさんと一緒に3人で考えてみました。その前編をお届けします。
INTERVIEW
2021.09.25 UP
先日一周年記念イベントの中で行われた、アングル・飯田と写真家・MOTOKO、真鶴出版・川口による「これからの観光ミーティング」。MOTOKOからの発案により、番外編として「これからの買い物」というテーマで鼎談が実現しました。MOTOKO曰く、今全国各地のローカルのプレーヤーたちの買い物の仕方が軒並み変わってきていると言います。一体どんなふうに? 三者の鼎談から、暮らし観光にも通ずる「これからの買い物」の共通点が見えてきました。
文/山中みゆき(真鶴出版)
MOTOKO:今日はお二人と、「これからの買い物」というテーマで話していきたいと思います。
飯田・川口:よろしくお願いします。
MOTOKO:早速ですが、飯田さんは昔と今で買い物の仕方が変わったと思うところはありますか?
飯田:そうですね。大学生か、社会人一年目ぐらいまでは、雑誌やセレクトショップで見つけた、かっこいいものやおもしろいものを買うという買い方をしていました。それが今は、つくり手の想いや背景だったり、その産業が抱えている課題であったり、「かっこいいだけじゃない深いところ」を見て、そこに共感してものを買うようになりましたね。応援も含めてものを買う、みたいな。
それは自分が暮らす地域でもそうですね。もちろん純粋にすてきだなという思いで行っているんですが、「地域のお店を応援したい」とか、「同じ地域の仲間だから」という理由で買い物したりします。
川口:ちなみに、当時読んでいた雑誌や、通っていたお店はどういうところだったんですか?
飯田:やっぱり『POPEYE』とか『BRUTUS』とか。普通にそういうのを見て、東京の大学に通っていたので、いわゆるセレクトショップ、代官山のハリウッドランチマーケットに行ったり。
川口:行きましたねー。
飯田:田舎(山梨県)から東京に出て、おもしろいお店がいっぱいあるからこそ、そういう流行を追っていたというか。どういうものが流行っているのかを雑誌で仕入れて、それを買ったりしていましたね。でもそれが今はかなり変わってきました。
MOTOKO:変化したきっかけって、なんだったんでしょう?
飯田:社会人になってから、想いのある作り手に出会うようになったということが大きいですね。
実は東京の大学で地域のことを勉強して、地元の山梨に銀行員としてUターンして帰ってきたときに、自分の中では「こんなことやってやるぞ」って思いを持って帰ったんですよ。でもそんな熱いことを言っている同期は一人もいなくて(笑)。自分の考えが今いる組織と全然違うぞ、となったときに、どこに行けばいいのか、自分が正しいのか間違っているのかわからなくなったんです。
そんなときに、銀行員の仕事とは別にまちのいろいろな活動に参加していく中で、ワインツーリズムを企画している大木貴之さんや、五味醤油という味噌屋の五味さんたちに出会ったんです。そこで例えばワインの作り手に、実際にワインを注いでもらって飲む尊さ、贅沢さを知ったり。自分の価値観はこういう人たちの価値観に似ているなというのを知っていく中で、結構買い物の仕方も変わってきたと思います。
MOTOKO:銀行員時代からそういう作り手たちと接してきたわけですね。川口さんはいかがでしょう?
川口:僕も、東京で暮らしていたときはブランド物を好んで買っていましたね。マルジェラとかマルニとか。そういう服を着ることによる高揚感を求めていたんだと思います。でもその後にフィリピンに行って、だいぶその考えはリセットされましたが(笑)。フィリピンのあと真鶴に来て、ちょっとどのタイミングか覚えていないですが、だんだん買い物に対する考え方が変わっていって。
僕の場合は、何かを買いたいと思ったときに、自分が知っている人がつくっているものだったら、まずそれを買います。それでもし知っている人がいなかったら、自分が共感する活動だったり、つながりたいと思うような人のものを買うようにしていますね。
飯田:それはやっぱり真鶴に来てからなんですか?
川口:うーん……真鶴に来てから、ですね。それこそ真鶴に来てから、作り手に出会う機会が増えたので、そういう考えになったのかもしれません。
飯田:やっぱり編集や出版をやっているからこそ、作り手に近くなったんですかね? それとも真鶴という環境が作り手と近いのか。
川口:真鶴というよりは、真鶴に来たことによって、他の地域に視察も兼ねてたくさん行くようになったんですね。そしてそこで暮らす作り手と知り合うことが多くて。例えば(長野県)松本に行ったら木べらをつくっている作家さんに会って、(富山県)井波に行ったらコーヒーのメジャースプーンをつくっている作家さんに会う。そうすると、じゃあこの人から木べらを買おう、スプーンを買おうとなる。
それは真鶴のお店でもそうで。やっぱりスーパーよりは商店街で買いたいと思いますし、友達のお店でつくっているものを買いたいと思いますね。根っこは同じだなと思います。
飯田:見える人からものを買ったほうが、安心感もあるし、うれしさもあるのかなぁ。誰がつくったのかわからないものを消費するよりも、つくった人の顔が見えるものを消費するうれしさ。「ただの消費」から変わってきているのかもしれないですね。
川口:「消費」じゃないですよね。つながるためのもののような。
飯田:それがコミュニケーションだったりする。
川口:うちの宿には数は少ないんですが商品を販売していて、基本的には自分たちとつながっている人のものか、これからつながりたいと思っている人たちのものを選んで置いています。例えば昨日は『nice things.』を仕入れたんですが、仕入れることで「ご無沙汰しています。今度真鶴に遊びに来てくださいね」というやり取りをして。それはまさに消費ではなくて、コミュニケーションをしたくて仕入れているんですよね。
飯田:うん、たしかに。僕も宿で置いているものはまさに同じ、全く同じです(笑)。今までのつながりの中で宿と相性が良いものだったり、紹介したいもの。消費というよりも、ちょっと違ったもの。
川口:仕入れることによってコミュニケーションを取って、それをお客さんに売ることで間接的にコミュニケーションをさせているのかもしれません。
飯田:うんうん。そのものに触れてもらうことで、在り方や背景も含めて、伝えられる媒介に宿がなったら良いなと思っていますね。
MOTOKO:かつての飯田さんや川口さんの買い物の仕方は消費者と生産者の関係だったと思うんです。それが今や二人とも自分たちで宿をつくったり、プロダクトもつくるから生産者になっている。それはアルビン・トフラーのいう「プロシューマー」と言い換えることができて。プロシューマーはプロデューサーでもあり、生産者である消費者のことで、今のローカルにはプロシューマーがすごく増えていると思うんです。20世紀はどちらかというと「買う人」と「売る人」に分かれていたのが、デジタル化が進んで簡単にものづくりができるようになったからこそ、買い物の仕方が変わってきたんじゃないかと思います。
プロシューマー同士が協力し合って、どういう風にいいものをつくっていこうか、新しい買い方っていうのを考えているのじゃないのかなぁと。
飯田:わかりやすい。そうかもしれないですね。
MOTOKO:服にしろ靴にしろ、80年代までは国産だったのが、バブル崩壊以降は安い中国製などアウトソーシングが増えて、結果、貴重さや大切さみたいな「モノのオーラ」がなくなった、と思うのですが、そのようなことを感じたことってありますか? とくに2000年代以降はどうも買いたいと思える魅力的なものが減ったなと。
川口:MOTOKOさんの言う、「高いモノの魅力が以前よりも減ってきている」というのはその通りだと思いますね。同時に、「安いモノの魅力が上がってきている」というのも感じています。昔は5,000円かかっていたものが、今は1,000円で手に入る。「ああ、もうこれでいいや」みたいに思っている人は多いんじゃないかなと思います。
ちょうど先日見たニュースにも、2000年から洋服の消費が半額になってるとありましたね。2000年は71,886円だったのが、今では37,149円になっている。みんな洋服にお金を使わなくなってる。
MOTOKO:デジタルの進化で、ものすごく安いコストで高級なデザインが買える世の中になりましたね。ジルサンダーのユニクロのように。それと同時に、これまで洋服を買うことでコミュニケーションを取っていた人たちが、洋服じゃなくてSNSでコミュニケーションを取るようになったんだと思います。
そのあたり飯田さん、どう思われます?
飯田:そうですね。僕らのような考え方はまだまだマイノリティで、大多数の人は背景を大事にした買い物をするのではなくて、ユニクロや無印良品で買うというのはあると思いますね。もちろん僕もそういうものを買うことはありますし、生産者から直接買うと値段も結構するものも多くて、バランスなのかなと思ったりはします。
でもだからこそ宿として伝える役目があると感じていて。そんなにたくさんの人がガラッと変わることはないと思いますが、1%でも変わる人がいれば、伝えていく必要はあるのかなと思っています。
MOTOKO:具体的には宿でどういう風に伝えていますか?
飯田:地域のものを取り扱うというのはもちろんありつつも、POP UPでイベントもやっていて、地域外で想いを持ってつくられているものを取り扱ったりもしています。例えば先日は「奈良の履物展」と称してTOUNやHEP(サンダル)を販売したり、山梨のガラス作家である小牧広平さんのものを展示したり。
飯田:他の地域の想いを持ってつくっているものがあることにより、岡崎市の人が他の地域とつながれるきっかけをつくりたいという思いがありますね。そうすると、同じような価値観を持っている人が他の地域にもいるんだと、視野が広がるのかなと。アングルのコンセプト的にも、地域外の人の視点と地域内の視点を掛け合わす場所として考えていたので。買い物をする、商品を見るという行為を通じて、そういうことができたらいいなと思っていますね。
川口:うちも、全く一緒ですね……(笑)。
飯田:(笑)
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「これからの買い物」鼎談
一周年記念イベントの中で行われた、アングル・飯田と写真家・MOTOKOさん、真鶴出版・川口さんによる「これからの観光ミーティング」。MOTOKOさんからの発案により、番外編として「これからの買い物」というテーマで鼎談が実現しました。