トライアングルトーク3「農の可能性とこれから」(後編)

農業に対し熱い気持ちを持つお二人。その熱量を保つモチベーションや、どのようにチームに共有しているのか。それぞれの考えをうかがいました。

COLUMN

2023.08.31 UP

愛知県のみよし市・豊田市で自然栽培のイチゴや落花生を育て、自社の加工品も作る「美岳小屋」の林さん。そして、兵庫県朝来市でブドウをつくる南谷農園と大自然の中でコーヒーが楽しめる「Sticks Coffee」を運営する南谷さん。 林さんは消防士からイチゴ農家に、南谷さんはコンサルティング会社・製薬会社からブドウ農家に転向されています。

前編では、南谷さんと林さんがそれぞれ異業種から農家になった経緯、日本の農業が持つ問題とそれに対してどのように取り組んでいるか、南谷さん的「農家」と「生産者」の違い、美岳小屋のイチゴの価格の理由などをうかがいました。 後編では、トークライブに参加してくださったお客様からの質問に答えていただいたところから始まります。(2023年1月14日の鼎談です。)

→前編はこちら

左)林 剛さん 中央)南谷 雄大さん 左)飯田 圭

飯田:今日来てくれている皆さんがどういう人なのか、何を聞きたくて来ているのかもおうかがいしたいです。

お客さん:農業というと私も祖父が小さい畑をやっていたので、自然と農的暮らしみたいなものが身に付いていて、でも周りの若者は今仰っていたような日本の農業の課題を知らない人が多くて、高い熱量で喋っている人たちを見て冷めちゃったりする人もいるんです。「熱量ある人かっこわるくない?」「意識高い系だよね。」みたいな人がすごく多いから、同じ熱量を持った人たちと喋りたいなというのが今日来た理由です。

林:グサっときました。僕も本当にそう感じていて、「あ、熱いですね…。」と言われたことが何度もあります。地元の小中学校で講演することがあるんですけれど、僕このテンションで行くので、「そういう熱い人が今時いるんですね。」とか、「林さんの熱量に引いちゃいました。ごめんなさい。」という手紙を生徒からもらったこともあります。
僕は人と同じことが大っ嫌いなんですよ。「出る杭は打つなら打ってみろ、突き抜けてやる。」みたいな感じなので、僕は人と同じ路線にいないだけです。

南谷:僕は今、傷ついていることがあって、小学校中学校高校大学に講師として行くことがあるんですね。そこでこの熱量で喋ってしまうので、「みんな引いてんだ…。」と思って。(笑)

お客さん1:その熱量をずっと持ち続けられるモチベーションは何ですか?

南谷:「次世代に農業を繋げる」というのが自分の人生の課題だと思っていて、その景色を見たいというのがモチベーションです。もし自分が生きている間に見られなくても、石垣だけでもつくって死にたいなーなんて思って。ごめんね、こういうの言うと熱いよね。(笑)

飯田:ちょっと気にし始めている。(笑)

林:僕らで完結する話じゃないと本当に思うから、僕らの世代で何か一矢を放てられればいい。一矢を打ち続けて何か一個でも誰かに刺さってくれればいいかなって。だからいろんなアクションを起こさなければと思うし、本当に時間がないなと思います。いつ倒れてもいいという思いでやっています。熱いですか?(笑)

飯田:自分の代だけじゃなくて先の視点まで見ながらやってるなと思うんですけど、それは農業を始めてからその視点になってきたのですか?

南谷:ぶっちゃけていうと、自分で景色を変えてその景色を見たいですね。とにかく頑張るけど、70年間の歴史を変えられるかと言ったら難しいところはあると思うので、でもやれることはやっちゃおうと。
この間、農林水産省副大臣が来たんです。「南谷くんみたいな農家が増えるといいね」と、あれだけお金を貸さなかった人が言ってきて、「前回のあの制度で落ちました」と言ったら、ごめん、と言われました。
僕らみたいに声を大にして、その声を聞きに来てくれる方がいて、それをまた伝えてくれる方がいてというのを繰り返していると、そこまで伝わるんだなと思いました。だから本当にこういう地道な活動は続けていきたいと思っています。

林:僕は最初は全然そんなこと思ってなかったですね。自分で変えられると思っていたから。でも現実は違って、これだけ築かれてきた農業を変えていくって熱い二人だけでは水をちょんってやられたら消えてしまうものなんですよ。だからこそ身近な人から動かしていくことが大切。

僕には子どもが二人いて上の子は小3なんですけど、消防士をしていたときは、絵を描くときは消防車やオレンジ服を描いてお父さんはヒーローだったのに、農家になった途端に僕の絵を一切描かなくなったんです。それがショックで、やっぱり子どもにとって農家ってそうか、と思っていろんなところに「お父ちゃんこういう人と仕事してんだぜ」って息子を連れて行きました。最近また描いてくれたんですよ。「パパのイチゴは美味しい」みたいな感じで。それで友達たちが「なんかイチゴが美味しいって聞いたんだけど!」とハウスの戸を開けてきたときに、「あ、未来はあるな」と思いました。

やっぱりそこの代に繋いでいってやっと変わっていくのかなと感じました。いろいろ挑戦して失敗しながらもそういうのが伝わればいいんじゃないかな。

お客さん2:お二人の熱量はチームや一緒に働いている方達にはどのようにして共有されていますか?

南谷:僕は定期的に、畑の上でもミーティングをするし、本当に話をする。みんなとの話には時間を惜しまないです。それがひとつで、あとは「仕事を任せる」ということを心がけていますね。自分が全部管理をしていると自分だけの農園になってしまうし、自分だけのSticks Coffeeになってしまうから、僕はもう現場に立たないよって言ってます。みんなに仕事を任せるようにしている。だからみんなが自分のベクトルを見直してそこに向かって進めてくれているっていうのが今の南谷農園のチームだと思っています。

林:うちはもう全然違って、僕以外は冷めていますね。(笑)何せ、イチゴが全然うまくいかないので、僕は現場に入り続けています。全部が気になるんです。全員が作業に入ったところも、もう一回全部入ります。ある程度作業はお願いもするんですけど今日話していて、そこは違うなと思った部分。それが良いか悪いかはわからないですよ。僕らはこう、南谷さんはそうというスタイルで。

熱量の共有、僕らはどちらかというと家族経営に加えて、豊田市で「橋の下世界音楽祭」というのがあってそこの仲間とも農園をやっていますが、自分の熱量を知っているから来てくれています。家族にはインスタの投稿に「あんな熱いこと言ったって気持ち悪いと思うよ。」などと言われます。(笑)

飯田:家族とやるという難しさはありそうですね。

林:それを打開するために、奥さんも、姉や母親も雇用しています。そうでないといい加減になってしまうので、きちんと家族にもタイムカードを押してもらっています。きちんとかかった時給もプラスして出していかないと、産業として成り立たなくなる。そういう価格でもあります。

飯田:仕事として農業をするという以外の選択肢として、みんなでやるとかいろんな形の農業のやり方が増えていくっていうのも、農家が減っていることへの歯止めをきかす方法としてあるなと思いました。

南谷:本当にそうですね。僕も「複業農家」なんですね。「副業」だとどうしてもサブみたいに思ってしまうけれど、全部本気で取り組んでいるという意味で「複業」です。2022年の12月21日に「複業農家。」という本を出版しまして、今話した内容がもっと濃く書かれています。皆さんいろんなお仕事をされているなかで少しでも、家でプランターでも買ってトマトを育ててみるとか、ナスを育ててみるとか、そこから始めてもいいと思うので、自分の食べ物を自分で育てるノウハウを身につけておくことをお勧めします。

林:僕は複業でなく専業なんですよ。自然栽培のなかでも不可能と言われているのがイチゴで、初めて食べたときに涙が出るくらい感動したんですよ。「なんだこの味は」と。これがやりたいと思ってイチゴを始めたんですけど、ことごとく失敗しました。

1年目は、うどん粉病というイチゴが粉を吹く病気に、2年目はアブラムシに、3年目は炭疽病っていうガンみたいな病気に悩まされました。自然栽培は栄養がないからダメなんだと思って、4年目に有機栽培を半分取り入れました。そしたら取り入れたところにだけヨトウムシという虫が寄ってきて、爆食いされました。それは自然栽培のハウスにはいなくて、有機肥料流したほうにはめちゃくちゃ付いていて。イチゴってそういうのに敏感に反応するんです。

5年目の今年なんですけど、またまた有機のほうで大失敗しました。結果的に自然栽培のイチゴのほうがやりやすかったということで今は落ち着いています。イチゴに関しては肥料を抜けば抜くほど美味しくなるけれどその代わり、ご飯を与えずに5月まで走り抜けると人間でもきついのと同じで、だんだん朽ちていく。限界までイチゴを採られたら、私はその生命を全うしたので終わります。と言っている感覚で、自ずと枯れて自然に戻っていくんです。

このイチゴで生計を立てるのならば4月までの収量でやっていければ自然栽培のイチゴももう少し広まるのかなというのが僕の持論なんですけど、そうするとあの価格になる。それをもし求められているのであれば続けたい、そうでなかったら僕はイチゴから一旦身を引こうかなという考えでやっています。とにかく自然栽培は難しいと思いますね。

南谷:皆さんは農薬が使われた野菜って、食べないですか?そこがとても重要で、林くんがやっている栽培を否定する気は全くないし、農家で生計を立てようと思ったら自然栽培で高く売るか、ごく少量でも農薬を使ってたくさん収穫するかの二択になると思っています。ただ、有名人が無農薬をと言ったり、大手スーパーや高級スーパーへ行くと無農薬というのを大きく打ち出してしまう。それって日本で本当にすべきなのかなと疑問に思っています。

例えば林くんが農薬を使うという栽培方法に切り替えれば、もっともっと多くの人をイチゴでおなかいっぱいにすることができる。農薬も改良されているし、本当に僕らが使う量って言ったらごく少量。種無しのブドウというのは農薬に漬けて種無しにしていくんです。ブドウに直接かけないようにはしているけれど3月に一度ふって、収穫が終わったあとにもう一度ふって、種抜き作業もします。減農薬栽培というカテゴリーでつくっているのですが、それでも無農薬じゃないとダメだという方が増えている。

無農薬栽培という言葉が一人歩きしているのが貧乏国である今の日本、また日本が裕福だと思っている日本人、というのがあって、それもちゃんと伝えるべきだなと思います。絶対叩かれるので、叩かれる覚悟で言わないといけないんですけど。僕はすごく恐怖を持ちながら皆さんにこの質問をしているし、話をしているんですけど、決して南谷農園のブドウは無農薬ではありません。

林:それは永遠のテーマですよね。僕も農薬をかけたいくらい売るものがないし、農薬は悪じゃないと思っている。農薬を撒くのも大変なんですよ。物によっては被曝する可能性もあるし。そうでもして届けたいという思いで農家さんは日本の食卓を支えるために農薬を使っていたりもする。当然農薬だっていろんな検査を受けた上で、人間のなかで安全レベルが担保されるから使用される。農家さんがそれぞれ努力されている部分ではあると思うのでその辺がもう少しいろんな意味で理解されるといいのかなと思います。

イチゴに関しては、あの味って無肥料だからこそ出せる味なんです。なるべく自然由来の農薬を選んで使うことを考えたこともあります。僕らはもう「美岳小屋さんの自然栽培のイチゴを」と言って くれる人がいるのでなかなか踏み切れないですけど、次にやろうとしている人には、有機JASを取っている農薬を使った上で、味は担保するけど農薬がかかっていて、でも数は採れるから価格は下げられるという方法がいいのか、どうなんでしょうね。そういう葛藤はずっとありますね。

飯田:つくる側もそうですけど、消費する側の視座をどう上げられるか。難しさもあると思いますけど、薄い情報に左右されずに自分のものさしを持って判断できる人が増えることが大前提だなと思いました。宿も同じで、観光地ではないところで「暮らしを感光する」ってよくわからないじゃないですか、正直。(笑)それをわかってくれる人をどう増やすかを考えていかないといけないなと自分にリンクして、伝えるって大切だし難しいなというのを改めて感じました。

農家に対し世間、特に若者が持つマイナスイメージを払拭し農家になる若者を増やすことで日本の食糧危機を回避するという、一代では終わらないかもしれないミッションに挑戦する南谷さんと、自身の溢れるエネルギーを過酷なイチゴの自然栽培に当てながら継続していける農業を目指す林さん。それぞれの背景がありながら「自分でつくって、自分で売る」というスタイルは共通していますが、それは容易いことではありません。それでもやり続ける姿に「農家ってカッコいい」が体現されていると感じました。

(文/フクイユウ)
(写真/山崎翔子)

トライアングルトーク「農の可能性とこれから」(後編)

作物や地域、そして農業の未来に熱い思いで向き合っている「農」に関わるお二人にお話を伺いました。