トライアングルトーク「これからの観光」

アングル・飯田(岡崎市)、アタシ社・ミネシンゴ(神奈川県三崎)、ITONAMI・山脇(岡山県児島)の3人で、近年変わりつつある観光について考えました。

INTERVIEW

2023.02.09 UP

左から、アタシ社・ミネシンゴ、ITONAMI・山脇、アングル・飯田

ミネ:岡崎は観光地じゃない、というのに対して、三崎って日帰り観光地なんですよ。東京や横浜からのお客さんも多いし、三浦市に来ている観光客は年間200万人いる。でも観光単価が2500円くらい。泊まらないわけですよ。16時半過ぎるとマジで誰もいなくなる。それは課題として感じています。

でも京都でいう金閣みたいなものはないわけですよ。猫を撮ってはしゃいでる若い子たちとか、ズタボロになってる自動販売機を見てキャッキャいう人とか、街そのものの姿を楽しんでいる人たちがたくさんいる。

ここ2,3年、観光の仕方が変わったんじゃないかなと感じています。写真家のMOTOKOさんが「暮らし観光」っていうのを仰っていますが、それが新しい観光の取っ掛かりになるんじゃないかなと。

飯田:確かに僕も2年前に宿を立ち上げたのですが、やっぱり岡崎は観光地じゃない。市は徳川家康とか八丁味噌というコンテンツを打ち出そうとしてるけど、年齢層が高いし名古屋があるので日帰りで通り過ぎちゃう。

じゃ、どうしたらいいんだろうってところで、僕も移住して、お店とか人とかここに根付いている文化がすごく良くて面白いと感じたので、それを伝える拠点を作りたかった。

まさにMOTOKOさんの、金閣とか銀閣とかそういうものじゃなく街に根付いている暮らしや文化や人を味わう観光を今後やっていきましょうっていう「暮らし観光」に共感して、なんかやっていきたいなって思ったのが3年前。

ミネ:児島も観光地じゃないですよね?

山脇:そうですね。「float」の立地も駅から本当に遠くて、来ていただいているのがありがたいようなロケーションです。

岡山県・児島で山脇さんが運営する宿泊施設「float

ザ・観光地ではないけど豊かな自然、海、山があるところとか、穏やかだからこそいろんな過ごし方ができるということを求めて、ノープランで来られる方が多いんですよね。

だからスタッフと一緒に過ごし方を考えたり、自分たちのオススメの場所にお連れして一緒に過ごすこともあります。

最初はお客さんとして来てくれていた人たちがコミュニティの中に入っていって、2拠点生活や定住という流れが少しづつ出来始めて、いつの間にか同じ、お客さんを迎え入れる側になってるのがすごく面白いなと感じます。

飯田:これまでの観光ってそこまで関係性を作らないことが主流だったけれど、そこに行って関係性を築いてもう一回行くみたいな流れができている感じがします。お二人はどう思いますか?

山脇:floatの場合は、最初はお客さん自身で過ごしていただくことを想定していたので、こんなにも僕らと絡むとは思ってなかったです。(笑)

想像以上に、一緒に過ごしたいと言ってくださる方が多くて、今ではチェックインの時にスタッフと一緒に過ごしたいかどうかを聞いて、その場合は夕食をみんなで作ったりしています。先日はすごかったです。僕らスタッフも7,8人いて全員で20人くらいになりました。お客さんが1組だけじゃなく複数になったときは、みんなで一緒に過ごしているんです。今夜もここに17,8人いますが、この一期一会みたいなのを毎日やってるみたいな感じですね。

そうするとその中の一定数の人たちは通うようになってくれたりとか、floatをうまく活かして自分がやる側になったりして。やっぱり消費する側でいることに飽きているということなんですかね。自分も何か表現する側に回りたいとか、迎え入れる側ならではの楽しさもあると思うんで、そういうのを感じてくださっているのかなと思います。

ミネ:お金を払ったその対価のサービスを受けるということではなくなってきてるよね。2万円のホテルに泊まって2万円のサービスを受けて帰っていくっていうのが今までだったけど、楽しみすらもサービスしている側の人たちと一緒に作っていくみたいなこととか、お客さんとサービス提供者の狭間がぐちゃぐちゃっとなっている気はする。

山脇:単に宿泊をビジネスだけで考えると、2回来てもらうのってめちゃくちゃ難しい。僕も自分が行く側だったら同じところにわざわざ2回は行かないと思うんですよ。どれだけサービスが優れていて素敵な場所だったとしても。

でも実際floatは複数回来ていただく方がいる。それはスタッフやそこによく出入りしてる人にもう一度会いたいとか、人というのがあるからこそ2回目以降が生まれていく。設備などのハードだけじゃ、、

ミネ:無理だよね。

ミネ:地域の暮らしを紹介する雑誌「TURNS」でワーケーション特集をやったんですけど、若い子和歌山県の南紀白浜に行って言ってたのは、白浜に来るのは大阪のお客さんがほとんどなんだって。三崎の観光客もほとんどが東京や横浜の人で、半径100km圏内くらいの近隣都市の人たちが来る。遠くから飛んでくるっていうのは圧倒的にコンテンツが強くないといけない。沖縄とか北海道とか、そういったところじゃないと人を引っ張れないんじゃないかなって気がしていて。

ちょっとした非日常は10kmくらい離れれば味わえるわけですよ。やっぱりコロナでそんなに移動もできないし、知らない街を散歩するだけでも旅気分が味わえるというのが、この2年でかなり増えた。それが新しい観光のスタート地点になる気がするから、実は岡崎をプロモーションする時に一番来てほしいのは名古屋とかその辺の範囲の人たちな気がする。

飯田:実際名古屋の人たちが泊まってくれることは多くて。やっぱり近くても知らなかったり、近くて逆に行かないって人たちが、社会情勢もあって来るきっかけになったっていうのは面白い。

アングル周辺を紹介するオリジナルマップ

山脇:そういう意味では宿だけでもダメですね。飲食をやるとか、地域に開かれた形にしておかないと。近隣の人たちが来られる場所にはならない。

ミネ:そうなんですよ。近所のおばちゃんもカレーが食えるくらいのノリでいないと、そこもちょっと分断が出てくるよね。
飯田:宿だけだと地域の人があまり関係ない場所になってしまうので、何か他の機能や工夫があると泊まってる人もより日常を味わえる。地域との接点ができやすくなる。っていうのをオープンしてより感じて、カフェを作ったりイベントをしたりと試行錯誤しています

ちなみにミネさんはいろんなお店を出されていますけど、その本質的なところを聞きたいです。外の人向けなのか、自分がやりたいからなのかとか。

ミネ:難しいっすね、それね。三崎のウェブメディア「gooone」は基本的には課題解決型。観光協会が作るサイトとはまた違って、地元の人たちが写真、編集で携われて、僕らの本当にオススメしたい場所だけを紹介する。そしたら見る人はいるだろう、とか。雑貨屋「HAPPENING(ハプニング)」もお土産屋さんがないから作ろう、とか。地域が持ってる課題を解決できてビジネスになるようなものを最初に考えます。

山脇:ミネさんはTURNSの仕事でいろんな地域の事例を一気に見るようになったと思いますが、インプットが変わったことによって何か変わりましたか?

ミネ:そうですね。かっこいいことをやってる人たちは地元で同心円上に何かを拡張してる人たちが多くて、例えばアングルだったら、隣の物件や歩いて2,3分のところに1軒作るとか。散らさないことが大事だと思いました。

僕でいうと商店街。商店街の中でいろんなビジネスとか、独立したい子たちを支援したりということをして狭い地域の中でどうやって円が膨らむかということを考えるようになりました。

あと自力でやってる人たちもすごい多いですね。

新潟の沼垂テラスという商店街で、35軒くらいシャッターが閉まっていたんですが、自力で30軒開けた人がいるんですよ。一軒ずつ買い上げて、人に貸して盛り上げたら隣を買って貸してまた盛り上げて、、やっていたら雪だるま式になっちゃって、毎週マルシェをやって4000人くらい呼んで。そしたら沼垂って場所が面白いって話題になって気づけば30軒くらいシャッター開けてるの。そういう人たちを見ていると、商店街って作れちゃうんだって思えちゃう。そこまでの資本力はないけど、そうやって一軒ずつ開けていけば気づいたら5,6軒いけるかもしれないとか。まだまだできそうなことがあるなと感じています。

これまでの観光と、これからの観光。お決まりの観光地を巡るスタンプラリーのような楽しみ方から、近くの街で感じる小さな非日常や、現地での行き当たりばったりの出会いを楽しむスタイルへ、「観光」に求められているものがコロナ禍をきっかけに大きく変化しているのかもしれません。人が集まる商店街を自力で作っていくというお話も興味深く、今は廃れてしまった街もまだまだ復活の可能性はあるなと感じました。 

         文/フクイユウ

プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

山脇耀平(やまわき ようへい)(写真左)
株式会社ITONAMI共同代表。
1992年生まれ、兵庫県加古川市出身。大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM(エブリデニム)」を立ち上げ。瀬戸内地域のデニム工場と直接連携し、オリジナル製品の企画販売をスタートする。2019年岡山県倉敷市児島に宿泊施設「DENIM HOSTEL float」をオープン。2020年ブランドを「ITONAM(イトナミ)」にリニューアル。

ミネシンゴ(写真中央)
三崎の出版社 アタシ社代表、編集者。
雑誌TURNS編集ディレクター。
2017年、神奈川県三浦市三崎に拠点を移し、築90年の古民家を借り港の蔵書室カフェ「本と屯」をオープン。約5000冊の蔵書と土日のみオープンするカフェスペースを運営。2階に「花暮美容室」を2020年3月にオープン。三崎の泊まれる仕事場「BOKO」、三浦三崎の観光マガジン「gooone」、三崎の雑貨屋「HAPPENING」など、商店街で遊びとビジネスをつくっている。2022年9月には真鶴にて「本と美容室」をオープン。