暮らしながら見つけた、まちとの向き合い方

このまちで暮らし働く、アングルのスタッフ。まちとのいい距離感を見つけるまでの話を真鶴出版のお二人に取材していただきました。

COLUMN

2022.06.07 UP

アングルの立ち上げスタッフの一人である山崎翔子さん。
ゲストの対応や宿の清掃をはじめ、アングルのSNSでは「暮らす人の視点」から岡崎というまちを紹介している。翔子さんは2015年に岡崎に移住した。一時は「まちづくりとは何だろう」と悩んでいたこともあったという翔子さんが、どんなふうにまちとの関係を育んでいったのか? 翔子さんの岡崎での活動と、思いの変化を取材した。

    インタビュー・編集:川口瞬、山中みゆき(真鶴出版)

まちのみんなで、写真展をつくりあげる】 

2021年10月、名古屋の名鉄百貨店にある無印良品のイベントスペースで、写真展「暮らしを観光する」が開かれた。 そこに並ぶのは、35枚の何気ないまちの暮らしの風景。 昔ながらのお豆腐屋や、和ろうそく屋の女将などの人の写真をはじめ、公園や川沿いの、ふとしたまちの日常を切り取ったものもある。

これらの写真は、「岡崎カメラ」として活動する18人のメンバーが撮った。そして、今回の展示で中心となって動いたのが、岡崎カメラのメンバーであり、アングルのスタッフでもある山崎翔子さんだ。
展示の設計は、設計チーム「studio36」。デザインは、デザイナー・岡田侑大さん。どちらも岡崎を拠点に活動しており、地元のチームで一丸となってつくり上げた。 「クリエイティブを担当したメンバーはもちろんですが、まちのひとたちも一緒のチームなんです」と、翔子さんは語る。

写真展に合わせて改めて岡崎のお店の写真を撮りに行ったときも、すでにお店の人とつながりができているためみんな快諾してくれた。そして展示されるお店の人はもちろん、さまざまなまちの人たちが名古屋まで写真展を見に来てくれたという。
「こうやってカタチになって初めて、『私もまちのここが好きなんだよ』と言えるんだとわかりました。自分たちの頭の中で思っていた好きなものや、お店に対する愛が写真を通して見えてくるんですね。写真展をきっかけに『この人はこういう視点を持っているんだ』と、みんなで話せたことがよかったです」

これまで岡崎カメラでは写真展の他に、雑誌『オズマガジン』上で連載も行なった。そこではお店選び、取材依頼、撮影、ライティングを岡崎カメラのメンバーで行ったという。「住んでいるからこそ撮れる写真がある。だから何か大それたことをしなくても、暮らしているだけで、それを発信するだけでいいのだとわかりました」と翔子さん。

翔子さんが岡崎にいたるまで 】

東京・江戸川区で生まれた翔子さんは、曰く「元気があるわけでも、寂れてるわけでもない」普通のまちで育った。
「昔は水槽からすくうお豆腐屋さんがあったり、銭湯があったりしたんです。でもずっとそこに住んでいながら、その当時はまちに愛着があるわけではなかったですね」
高校では青山に通い、大学は都内にある美術系の大学に通った。そこでハマったのが「文化祭」だった。
「今思い返すと、今の仕事と同じプロジェクトマネジメントをやっていたんです。文化祭実行員として人と人の間に立って、どこが落としどころなんだろうって調整していく。演者だけじゃなくて裏方もいてはじめて一つのものができると、そのときから思っていました」

大学卒業後は、愛知県瀬戸市にある食器ブランドに勤める。2015年に結婚を機に会社を辞め、夫婦で話し合って住む場所に選んだのがここ岡崎だった。
「豊田か安城か岡崎で悩んで、一番歴史と文化の香りがしたのが岡崎だったんです。岡崎城があって、あいちトリエンナーレの会場にもなっていて、リブラという大きな図書館もあって」 岡崎に移住後は食品会社に勤めるが、
会社に通いながら徐々にまちの活動に参加していった。
最初は惣菜店兼カフェの「wagamama house」の壁塗りワークショップ。そこからさらにつながりが広がり、さまざまなワークショップに参加するうちに、アングルのオーナーである飯田夫妻にも出会った。

左:山本(飯田)倫子さん 中央:「丸長」店主
山崎さんと山本さんが共に自主制作・自費出版で作った、岡崎を紹介するマップ

順調に岡崎に馴染んでいったように見える翔子さん。しかし、当初は「まちづくりとは何だろう」と悩んでいた時期もあったという。
「『あなたは何がやりたいの?』って質問、困るなと当時ずっと思っていて。お店をやりたいわけでもなかったので。『何もできないけど、どうしたらいいんだろう』と、少し辛くなっていたんです」
「そもそも、まちって“つくる”ものなのだろうか?」。やりたいことがない人はまちへの関わりしろがないように感じ、モヤモヤとした気持ちが続いていた。

まちとつながるきっかけ 】

そんな翔子さんがなぜまちとつながるようになったのか。「自分の力ではない」と翔子さんは言う。
「岡崎に暮らす人がみんな岡崎のことを好きだから、どこかのお店に行って盛り上がると、別のお店を紹介してくれたり、連れて行ってくれるんですね。自分で開拓するというより、誰かの紹介で行くことが多かった気がします」

アングルのSNSや岡崎カメラでお店に取材することも大きかった。取材という名目で何度もお店に通い、お店の人と仲良くなる。取材を通じてお互いの関係が育まれていった。
「もともと私も個人商店をガンガン開拓していくタイプではないし、岡崎のお店って一見わかりづらいんですよね。ゲストの人はもっとそうだろうなと思って。だからこのまちの面白さを丁寧に伝える種まきをしていくことができたらと思っています。そしてアングルを訪れた方で、『このまち、面白かったね』と言って帰ってくれる人が増えたらうれしいですね」

翔子さんに岡崎の話を聞くと、何を聞いても的確に返ってくる。
「これまで岡崎はどんなふうに変化してきたのか」、「どうしてまちの人は岡崎のことが好きなのか」、などなど。常に客観的に、一歩引いて岡崎のことを観察しているからこそ答えられるのだろう。
「自分から新しいお店を開拓するのは苦手」、「やりたいことはあまりないタイプ」と言う翔子さん。しかしそんな翔子さんだからこそ、色々な人の気持ちを汲みながら、まちと人の関係をつくっていける。

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川口瞬

真鶴出版代表。雑誌『日常』編集長。

1987年山口県生まれ。
大学卒業後、IT企業に勤めながらインディペンデントマガジン『WYP』を発行。“働く”をテーマにインド、日本、デンマークの若者の人生観を取材した。

2015年より神奈川県真鶴町に移住。
「泊まれる出版社」をコンセプトに真鶴出版を立ち上げ出版を担当。
地域の情報を発信する出版物を手がける。

「LOCAL  REPUBLIC  AWARD  2019」最優秀賞。

暮らしながら見つけた、まちとの向き合い方

このまちで暮らし働く、アングルのスタッフ。

まちとのいい距離感を見つけるまでの話を真鶴出版のお二人に取材していただきました。