大みそか、岡崎まち歩き
岡崎のまちで過ごす大みそか。二七市のいのしし鍋から始まり、昔ながらの豆腐屋、街角の喫茶店ーー。スタッフすずかが出会った、年の瀬の商店巡り記録。
岡崎のまちで過ごす大みそか。二七市のいのしし鍋から始まり、昔ながらの豆腐屋、街角の喫茶店ーー。スタッフすずかが出会った、年の瀬の商店巡り記録。
COLUMN
2025.01.01 UP
朝9時半、アングルから徒歩2分の二七市(ふないち)へ。2と7のつく日に開催される、戦後の闇市が発祥の二七市は、12/31はお正月準備のために特別に開かれている。おせちの具材を求める人々でいつもより賑わっていた。でも、馴染みの店々の佇まいは変わらない。その普遍性が、心を落ち着かせてくれる。
市場の奥から良い匂いが漂う。串カツ屋さんが振る舞っていたいのしし鍋だった。大鍋を囲んで、たくさんの人々が赤味噌の効いた汁を啜る。見知らぬ顔も多いけれど、ここで顔なじみになったおじい・おばあたちもいた。「こっち来て座るか」と声をかけてくれた。今日限りのいのしし汁と、いつもの人たち。この特別と日常が交差する瞬間が、たまらなく心地よかった。
買い物バッグには、野菜に果物、乾物のおつまみ。そして特大のブリが重たい。今夜はぶりしゃぶにする。年の瀬のごちそうを想像しながら、次の目的地へ。
二七市通りから30秒。豆腐の富岡屋に到着。店内の一番目立つ場所には、大きな水槽が置かれていて、水面がキラキラと光る中、真っ白な豆腐が静かに佇んでいる。持参したタッパーに、お母さんが手際よく豆腐を掬い上げてくれた。
まちに残る昔ながらの豆腐屋。スーパーやショッピングモールが増えた今の時代もなお、このスタイルを続けてくださっていることに、言葉には現しきれない感謝がある。
富岡屋の豆腐は、スーパーで買うものよりも大豆がぎゅっと詰まっていて味がしっかりしている。美味しいものにすぐに辿り着けるところも、このまちの良さだなと実感する。
次は、籠田公園・中央緑道に面したさんとくやへ。大きな窓が特徴的な、街角の喫茶店だ。たまたま前を通りかかったとき、大みそかにも営業していることを知り、今日のランチはここに決めた。
窓から差し込む冬の陽が、テーブルを優しく照らしている。同じく出勤している、アングルオーナーのけいさんと一緒に席に着く。メニューを開くものの、結局いつものハンバーグランチを注文。おろしハンバーグとレタスとトマトのシンプルなメニュー。温かな日差しと共に、静かな時間を過ごした。
アングルに戻る途中、2軒隣の洋菓子BERNに立ち寄った。いつもお世話になっている店主さん、スタッフさんが、今日も笑顔で迎えてくれる。店内を見渡すと、細長く曲がりくねったへびの形のクッキーが並んでいるのが目に留まった。かわいらしさに惹かれて、自分用に2つ購入した。
アングルでの業務を取り掛かったのちに、買い出しにタックメイトへ。
市内で一番古いコンビニで、DM710というヒップホップのグッズショップが間借りをしている、ちょっと変わったコンビニだ。タックメイトの推しポイントは、元酒屋ということもあり、ガラス瓶入りの炭酸飲料が豊富なこと。ジンジャーエール、トニックウォーター、ファンタなど、瓶から注ぐ炭酸の爽快感が恋しくなると、つい足が向いてしまう。ジンジャーエールを家族用に購入し、店に立つおばあちゃんに年末の挨拶を交わして、お店をあとにした。
そして、最後の目的地、coffee.to.______へ。おとといも訪れたばかりだけれど、スタッフのみおさんに「良いお年を」と伝えたくて、また足を運んだ。大みそかにも美味しいスペシャルティコーヒーが気軽に味わえるなんて、このまちは本当に豊かだなと思う。あと少し、今年最後のお仕事を頑張るための元気を、コーヒーとみおさんの笑顔からもらった。
これまでの年末といえば、大きいショッピングセンターにいって、肉や魚や野菜、そのほか生活必需品を購入し、そのあとの食事まで全て同じ建物で済ませていた。物心ついた時からそのスタイルだったし、それはとっても便利で効率的だということも知っている。
今日みたいに一軒一軒個人店を回ることは、生まれて初めてだった。とっても時間がかかるし、スーパーで買うより高くつくこともあった。
でもそれでも、「良いお年を」「来年もよろしくね」と買い物のたびに言葉を交わした時間は、このまちで私が暮らしてきたことを確かなものにし、これからもこのまちで生きていくんだということを実感させてくれる心のお守りのような時間で、便利さや効率性に到底勝るものではなかった。
今日巡ったお店は、全てアングルから徒歩3分圏内にある。城下町でもあり、宿場町でもあったこのまちは、古くから続く商店が残っている一方で、若い人が新しく始めたお店も増えている。「商い」と「暮らし」のバランスがちょうどよいこのまちだからこそできる、大みそかの過ごし方だったなと感じる。
世間がお休みモードの中、いつもと変わらない日常をつくりたい、お正月の支度をしてもらいたい、という思いで、それぞれのお店が少ない人員の中で営業を続けてくださっていた。まちの人たちのおかげで、私たちの暮らしが支えられている。
店々にお支払いしたお金が、明日からもこのまちで商いを続けていくための、小さいけれど確かな投資になっていたらいいなと願う。
自分の暮らすまちが楽しいものになるかどうかは、自分次第な気がする。買い物は、一番身近な「投票」である。
文と写真(特記なき場合)/たいらすずか