藤原印刷コラボトーク「本をつくるってどういうこと?」(前編)

2024年12月から2025年1月にかけて、アングルで長野県松本市の印刷会社「藤原印刷」さんとのコラボ展示を開催しました。そのスピンオフ企画として2024年12月14日に開催されたトークイベント、「本をつくるってどういうこと?」のレポートをお届けします。

REPORT

2025.05.07 UP

→ イベント概要はこちら

トークゲストは「藤原印刷」の藤原隆充さん、藤原印刷で本づくりをしたことがあるイラストレーター山本ひかるさん、そしてアングルオーナー飯田圭の3名。愛知県内や岡崎近郊の方を中心に、18名の方に参加いただきました。中にはトークを聞きに遠方から来られる方もいらっしゃいました。

12/14(土)ホンネトーク - 本をつくるってどういうこと?- 【 藤原印刷コラボトークイベント 】


トークイベントが開催された経緯

飯田:岡崎の地で4年半ほど宿を運営していて、アングルは地域を発信するメディアだと思って活動してきました。地域のことを切り取って発信をするってある意味「編集」だなと思うようになり、4周年のタイミングで宿の役割を「街の編集室」と位置づけました。

X(旧Twitter)で藤原さんとやり取りをする中で、紙モノを出版することが街を伝える一つの方法だと感じて、今回の展示やトークの開催が決まったんです。今日のトークでは、個人で本をつくる「クラフトプレス」を広げる活動をされている藤原印刷さんや、イラストレーターで自身で本もつくられている山本ひかるさんの両者に、「本をつくるってどういう価値や意味がある?」ということを聞いていきたいなと思います。


ゲストのおふたりの自己紹介

藤原:藤原印刷は創業70年、僕の祖母がつくった会社です。長野県松本市で創業して間もなく東京にも営業所をつくりました。一方で印刷会社は超衰退産業で、インターネットの普及でどんどん需要が減っている現状があります。3代目として継ぐときに周りから「大変だね」と言われたし、自分自身も「やばくない?」って思ってて。正直、明るいイメージがなかったです。

実際に印刷会社で働いてみたら、機械を回さないとお金にならなくて、自分たちの生産効率を上げるために顧客満足度を犠牲にせざるを得ない現状があることを知りました。それに違和感があったし、ここ10年ほどはじっくりお客さんに向き合うことを大切にして、個人の方の印刷に力を入れてきました。案件を受け始めた当初は、社員から「誰がこの仕事を取ってきたんだ」と言われたこともありましたが、地道に続けてきたら今では売上が4億円くらいになったんです。当初からしたら300倍!ありがたいことに、毎日のように問い合わせをいただけるようになりました。

本を出版したいと声を掛けてくださるのは、普段はサラリーマンだけど趣味で写真を撮っている人や詩を書いている人など、つくることを楽しむ街の人ばかりなんです。そういう人が増えた方が絶対街がよくなるなと思って、一緒に本をつくる活動をしています。

山本:わたしは藤原印刷さんのある長野県松本市から来ました。イラストレーターは便宜上名乗っていて、絵を描くだけじゃなく企画・編集・デザインの仕事を一貫して行っています。印刷は自分ではできないので、近くの藤原印刷さんにお願いすることもあります。

普段はお仕事でマップを描かせてもらうことが多くて、アングルの「暮らしかんこうマップ」も実際に岡崎のまちに1週間滞在して作成しました。

完成した「暮らしかんこうマップ」


クラフトプレスの変遷

藤原:自費出版は「リトルプレス」「ZINE」「インディペンデント」という言葉でも表現されることがあります。最近だと個人でつくる出版物をイメージすることが多いと思いますが、その前から自費出版自体はあって。大きく2種類に分けると、大手の出版社が中小企業の社長さんに「本を書いてみませんか」と声を掛けて制作するものと、もうひとつは自叙伝的なものです。

最近は個人で電子書籍をつくるという選択肢もありますし、紙の本で自分らしいものをつくって手売りやECサイトで販売することもできます。本屋に営業しなくても、数百部から始めて自分でSNSで告知して販売している人も多いです。これまで個人で本をつくるのは人生で一度あるかどうかくらいでしたが、どんどん身近になってきてリピートされる方も増えてきました。

藤原印刷で本をつくられた方の中には箔押しで装丁にこだわって4000部を自費出版するという方もいて、それを「リトルプレス」や「ZINE」と言っていいのかなと思うようになりました。ちょうどいい言葉がなかったので、本というよりもつくる行為自体を「クラフトプレス」と名付けました。


なぜ本をつくりたい人が増えているのか

山本:本をつくることって、自分の世界観を見せる表現活動なのかなと思います。手触りや質感を含めてその人らしさを伝えることができるし、特にデザイナーや編集者などつくる仕事をしている人は「自分はこんなことができる」と示すツールにもなりますよね。

飯田:アングルは2024年の夏に、宿のインテリアやアメニティのこだわりを解説した「ストーリーブック」を作成しました。webだと流れてしまうし、紙は質感やものを分けることで「らしさ」を表現できると思って。最初は全部を1冊にまとめる予定でしたが、①各地からアングルに来てくれた人の滞在記と②アングルの設計士さんと僕の対談、③宿のインテリアのこと、④アングルの想いの4種類で1つのものにしています。

部数が少ないうえにこだわってつくったのでその分お金もかかりましたが、それだけ熱い想いを詰め込むことができました。アングルに泊まりに来たからこそ、実際に本を手に取って見れるという仕掛けもいいなと思っています。

山本:わたしは2020年に藤原印刷さんと『手弁当』という自費出版の本を制作しました。

その当時、お弁当をつくったらインスタにアップするということを続けていたんですけど、気づいたら自分の中で義務になってきて。そこで卒業アルバムみたいなイメージで、お弁当から卒業するために本をつくろうと思いました。自分の中の区切りとしてつくっている感覚で、本は自分の墓みたいなものだと感じています。綴じないと次に進めないなって。自費出版する人ってひねくれてるんですよね(笑)

ほかに本をつくった理由は、自分でものをつくって売るという一連の作業を経験したかったのと、これからの自分の広告になるかなと思って。墓として本をつくった後に売る作業が始まるんですけど、一度自分の中から出ているものなので自分とは別物として売っています。墓というよりむしろ生まれたという気持ちなので、第2ラウンド。お子みたいな感覚です(笑)

藤原:次に行くために一度本にまとめるという行為は、社史も同じだなと思っています。藤原印刷はもうすぐ創業70周年を迎えるので、記念に社史をつくる予定で。お金と時間と労力をかけてつくることで、それまでを振り返って次に進めるような気がします。

前編はここまで。後編では、実際に本をつくることについてのお話をまとめています。

文/すがわらはるか

写真/たいらすずか、梅村真梨子(ストーリーブック)

→ 後編はこちら

藤原印刷コラボトーク「本をつくるってどういうこと?」(前編)

2024年12月14日に藤原印刷さんとのコラボで開催されたトークイベント、「本をつくるってどういうこと?」のレポートをお届けします。