アングル「ユニ・フォーム」プロジェクト

「誰がスタッフなのかわかりづらいよね」ということから始まった、アングル「ユニ・フォーム」を作るプロジェクト。当初は予期しなかった大きな物語になった、その全貌をコラムにしました。

COLUMN

2021.11.17 UP

こんにちは。アングルスタッフの山崎翔子です。
私たちアングルのスタッフは、いつも私服で働いています。
お客様と話しているときに、初めて来る人には私たちスタッフとお客様との見分けがつかないことに気付かされて、2021年春にアングル「ユニ・フォーム」プロジェクトは始動しました。

当初「ユニ・フォーム」を作る話があがった時は、布を買って縫ってもらって、のイメージまでしか湧いていませんでしたが、たくさんのクリエイティブで熱い思いの人たちに関わってもらって、ただの1着で終わらない物語が生まれました。

右から「森菊株式会社」蒲郡にあるテキスタイルメーカーの杉山菜那さん。布の担当です。 販売する布を作る前に、試験や見本のために作った生地は捨てられる運命にあって、それをどうにかしたい!と動き続ける熱い素敵な人。

その横は「ZINO」鈴木路乃さん。パタンナー&縫製担当であり、今回のプロジェクトのつなぎ役です。 アングルのカーテンなど布物は彼女にお願いしていて、私たちの感覚や思いを汲んで提案や併走をしてくれています。

一番左、袋に入った緑色のものは、先日のイベントにも出店していただいた、岡崎の産地茶問屋「宮ザキ園」のお茶の葉。 これも製品化の際にこぼれて床に落ち、飲むには適していない色々な部分の廃棄予定だったもの。

廃棄予定だった布を、廃棄予定だったお茶で、アングルで基調にしているグレーに染めて、世界に1着しかない形になりました。

右「ZINO」鈴木路乃さん、左「森菊株式会社」杉山菜那さん。

写真右、パターンナー、鈴木路乃さん(みちのさんの愛称はジノさん)に「ユニ・フォーム」を作りたい、と相談したところから話はスタートしました。彼女は、東京のコレクションブランドでパタンナーを経験した後、岡崎市にUターンしてフリーランスで服のパターンを引いたり、オーダーの服を作ったりと活躍をしている人です。
アングルの各所に張られたカーテンを作っていただいたり、オーナー飯田夫婦の結婚式の時にウエディングドレスを作っていたりと、顔見知りであり、私たちとの感覚が近いこともあって、快く制作を引き受けてくれました。

春、最初の打ち合わせをした時に、ジノさんが「せっかくなら行ってみたいテキスタイルメーカーがある」という話をしてくれました。その2週間後に岡崎市のお隣の蒲郡市まで、まだ暑い最中スタッフ全員と一緒に行ったところから、大きく話が展開していきます。

伺った先は「森菊株式会社」1897(明治30)年に創業した、天然繊維の織物に強い蒲郡市の繊維総合商社。その日は「もりきくマルシェ」という、一般の方も会社に訪れることができるイベントの日でした。 プロジェクトのお話しを聞いてくださったのは、テキスタイル1部1課の杉山菜那さん。

杉山さんには、アングルという場所の説明に加えて、なぜ作るのか、数量や形や布の質感のイメージをお伝えしていきました。その中で提案にあがったのは、オーガニックコットンのデニム生地、地元の生地として三河木綿や天然染料の生地。その中から選ぼうと後日スワッチ(端切れサンプル)を送っていただきました。

アングルでジノさんを交えながら、最終的な布をどれにしようか考えていた頃。
杉山さん発案の『テキスタイルレスキュー』という、廃棄予定の見本反や試験反を救うプロジェクトが始動したことを知ります。

森菊さんの社内にある廃棄予定の生地たち。
※試験反=生地を開発する時に品質を試すために織る生地。 
※見本反=サンプルとして織った生地に加工をした販売見本生地。

通常、服になる布を販売する前の試験や見本のための生地は、最終的に使えるかの試験に出していなかったり、出していても合格していなかったりする。大手アパレルメーカーは不特定多数の人へ販売するので、そのような生地は衣料品には使用できないそうです。
ですが、作る人も使う人もその特徴を理解していれば、とても魅力的な生地だと感じる人も多いと思います。 例えば、今回のユニ・フォームに使う生地は「コットンリネン混合のキャンバス生地で、漂白も染色もされていないもの」です。草木染めなど自分たちで色を染めるのにぴったり。風合いもナチュラルで厚みも良さそうだと、いくつか送って頂いたサンプルからこちらに決めました。

「もりきくマルシェ」での打ち合わせの時に、実は気になるグレーの布がありました。 話を聞くと西尾の抹茶工場で床に落ちてしまって廃棄される抹茶を染料として使用したものだそう。
「お茶で染めている」そう聞いたアングルメンバーの頭には、いつもお世話になっている岡崎の産地茶問屋「宮ザキ園」のことが浮かびました。 森菊さんと西尾の抹茶工場は提携先ではなく、使うものは自由に決めて良いうことがわかり、宮ザキ園に聞いてみると、製造工程で弾かれたり床に落ちてしまい廃棄になる茶葉があることもわかりました。
もともと、岡崎や三河地区のものを使えたらという思いはあったのですが、廃棄予定だった布を、廃棄予定だったお茶で染める。想像以上のストーリーが見えてきました。

夕霧に包まれる「宮ザキ園」

お茶で染めることは決まりましたが、天然染料での染色は、色の不安定さやケアの難しさがあるそうです。 森菊さんで色々と実験していただき、 色を安定させるために、UV加工をしたり化学薬品を混ぜる方法も試してくれました。それを見せて頂きつつも「色褪せも劣化ではなくて、経年変化だからそれでいいよね」と全員の意見は一致。 お茶の葉のみでグレーに染めることが決まりました。

森菊さんがいつも染め加工をお願いしている工場に依頼する話もありましたが、 スタッフ2人の2着分で、しかも持ち込みのお茶の葉。サンプル依頼だけでかなり高額になることは目に見えていました。 それも含め、「自分たちで染められたら楽しそう!」と、ジノさんのよく知っている染色の先生に相談したところ、お力を貸していただけることになりました。

さっそく名古屋学芸大学メディア造形学部ファッション造形学科の島上祐樹先生に試し染めをしていただき、染料の茶葉を水で一晩水出しにして、アングルが基調にしているグレーに染めるために媒染は鉄と決まりました。 ジノさんが仮縫いの後に、ざっくりと必要な寸法と布の重さ、それを染めるのに使う水の量・茶葉の量・媒染液の量などを計算して、手順まで書き出してくれました。

アングルメンバーとジノさん、杉山さん。5人で名古屋学芸大学にお伺いし、染色室や器具をお借りして、島上先生とそのテキスタイルゼミ3年生の皆さんと染めていきました。試し染めをして媒染液の濃さや染色液で煮る時間を決めていきます。

媒染液に入れて1時間半。 取り出して水洗いして絞った後、前日から茶葉を水出しにしてくれた抽出液を火にかけて80度以上で15分煮ます。取り出した後は汚染防止洗浄剤(染める必要がない部分に色が付くのを防止する洗剤)で洗って、洗濯機で脱水。
書き出すと数行ですが、2着分=9mの布をいくつかに切り分けたパーツは予想以上に多く、水を含んだ布は重かったり、火にかけても80度以上になかなかならなかったり、夕方まで大変ながらも楽しく染めていきました。

さて、最後に形の話をするために、最初の打ち合わせをした時まで遡ります。

ネットで色々な形を見比べて、こんなものが着たいなと妄想を膨らませて臨んだ打ち合わせ。 動きやすくてシンプルで使いやすい形、そしてアングルが「元カメラ屋」というストーリーを盛り込んで、最終的なデザインコンセプトは「白衣」に。白衣のカチッとした実験着のイメージと、アングルのナチュラルな雰囲気が共存できる様なワークコートを考えてくれました。
肩が少し落ちていて、着丈は長めで、衿は大きめ。ペンや携帯などを入れられるようにポケットは胸元と両手の位置に3つ。 他にもイメージを形にする上での工夫が随所に凝らされていました。

女性2人のユニ・フォームを作ることにしたので、採寸をしてもらったところ、身長も各所サイズもほぼ同じなのですが、身体の厚みが違うことがわかりました。共通サイズで2着作ることに決まってからは、どちらかの特徴に偏らないようにとても工夫してくれたそうです。
採寸後の仮縫いでは、肩先、袖底の高さ、袖幅、袖丈、着丈、ポケットの位置、ボタン間隔などを微調整したとのこと。 仮縫いは、シーチングという仮の布や、本番の生地の似寄りの布で仕立てたもので行います。

ほぼ完成したものを見せてもらった時に「2着作るけど、着る人は違うからボタンは別々でも面白いよね!」と盛り上がりました。
「このコートにつけるボタンなら20mmが一般的なサイズだろうけど、18mmでも。生地の色も染めたムラがあるから、ニュアンスがあったり、1色じゃなくていいかも。」とジノさんにアドバイスをもらって、アングルの近所にある服の資材を色々扱っている「小沢屋」に行くことにしました。

サイズや色の目安を胸に、お店に行ったのですが、ボタンはたった2ミリでも全然印象が違うことがよくわかりました。 綺麗に並べられたボタンの山から選ぶのが楽しい反面、1時間弱、迷いに迷いました。 そして、ボタンの穴やジャケットやコートのハトメ穴は特殊なミシンが無いとあけられないそう。 ジノさんがいつもお願いしている名古屋のお店に依頼して、独特なグレーの色に合わせて3色違うミシン糸を混ぜてホールをあけてくれました。そのホール含めて、裏返して隅々まで見ても、本当に美しい作りです。

たくさんのクリエイティブで熱い思いの人たちに関わってもらって、まちの人にも手助けしてもらって「ユニ・フォーム」は出来上がりました。
廃棄予定だった布を、廃棄予定だったお茶で、自分たちで染めた、世界に1着しかないもの。なので、名前は「ユニ(ユニークを短縮=唯一の)・フォーム(形)」通常の「制服」という意味は残しつつ、見えないところに小さなこだわりが詰まったものを表せることばにしました。

アングルは角度や視点を変えることで、物事を新しい見方で伝えたいと思っています。このプロジェクトを通して、わかったことが沢山ありました。

「何かを作るために、どこかで何かを捨てている」
「でも、それを知って、魅力的な形に活かすこともできる」
「何より、地域の人たちと協力して、新しいものを生み出せるのはとても楽しい」

今日もアングルのスタッフはユニ・フォームを着ています。
お越しいただいた時にはぜひ、ご覧いただけたら嬉しいです。

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写真/山崎翔子・フクイユウ
文/山崎翔子
文章協力、写真提供/鈴木路乃・杉山菜那

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アングル「ユニ・フォーム」プロジェクト

「誰がスタッフなのかわかりづらいよね」ということから始まった、アングル「ユニ・フォーム」を作るプロジェクト。